親が高齢になり、身体の自由がきかなくなったり、施設への入所が必要になったりすると、子どもが親の財産(預金など)を管理するケースが増えてきます。
ただし、子どもが複数いる場合、そのうちの1人だけが親の財産を管理していると、他の兄弟から「親のお金を勝手に使っているのではないか」と疑われたり、親の死後に遺産分割をめぐるトラブルが起こることがあります。
こうした事態を防ぐために、親の財産管理を行う際の注意点と、活用できる制度について整理しておきましょう。
管理をする際に大切なポイント
① あくまでも親の財産であることを強く認識する
いずれ相続で引き継ぐ可能性が高い財産とはいえ、まだすべて親の財産であり、自分のものではありません。「親のために、どう使うべきか」を常に意識し、ゆめゆめ自分の財産と混同することのないように厳密に管理を行いましょう。
② 管理内容を明らかにしておく
管理の内容が不透明だと、後で「勝手に使われていたのでは?」という疑念につながります。
できるだけこのあと紹介する制度を活用し、契約書や家計簿、通帳のコピーなどの記録をしっかり残しておくことが大切です。
また、親と1対1でお金のやり取りをすると、後で「言った・言わない」のトラブルになりがちです。
兄弟など他の相続人が同席する場面を作るなど、肉親であるからこそ、客観的な証拠や公明正大な行動を意識しましょう。
親の財産管理に活用できる3つの制度
こうしたトラブルを防ぐために活用できる代表的な制度が、
① 財産管理契約
② 任意後見契約
③ 家族信託
です。
以下で、それぞれの特徴を解説します。
財産管理契約
高齢などで身体が不自由になった場合や、施設に入所する際などに、親が信頼できる第三者(子どもや親族、専門職)と結ぶ契約です。
「自分の代わりに財産管理をしてほしい」という委任契約の一種で、民法に基づいています。
<メリット>
- 成年後見制度と違い、親の判断能力(意思能力)がしっかりしている段階でも利用可能
- 契約締結後すぐに効力が発揮されるので、スムーズに財産管理を始められる
- 誰に管理を任せるかを自由に決められる(家族だけでなく、行政書士や司法書士など専門職にも依頼可能)
<注意事項>
- あくまで任意の契約であり、管理内容は契約書の内容による
- 親の判断能力が著しく低下した後には、成年後見制度などに移行が必要な場合もある
- トラブル防止や契約内容の証明力を強化するために、公正証書にしておくことが有効
任意後見契約
将来、認知症などで親の判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ親本人が「この人に後見をお願いしたい」と後見人を決めて契約しておく制度です。
<メリット>
- 誰に後見を頼むかを親が自分の意思で決められる
- いざ親の判断能力が衰えた時に、スムーズに後見事務を開始できる
- 任意後見人に依頼したい内容をある程度自由に決められる
<デメリット・注意事項>
- 契約してすぐ効力が発生するわけではなく、親の判断能力が低下したときに「任意後見監督人」の選任申立てを家庭裁判所に行い、選任後に初めて効力が発揮される
- 任意後見監督人が選任されることで、任意後見人の行動が監督される仕組みになっており、第三者のチェックが入ります。
- 判断能力が低下してからでは任意後見制度を利用できず、法定後見制度しか利用できない
- 公正証書での作成が法律上必須です。
家族信託
「信託契約」という形で、親(委託者)が子ども(受託者)に財産管理を託す制度です。
委託者・受託者の間で契約書を作成しておくことで、親の判断能力が衰えた後もスムーズに財産管理が行えます。
<メリット>
- 親が元気なうちから子どもに財産管理を任せられる
- その後、親の判断能力が衰えても「信託財産」として管理・処分を子どもが継続できる
- 成年後見制度とは異なり、資産が実質的に凍結されない
- 親が亡くなった後の財産の引き継ぎ方(遺産の分配方法)まで柔軟に決めておくことも可能
<注意事項>
- 信託契約書の作成には専門知識が必要。司法書士や行政書士などの専門家に相談することが必要
- 信託財産の管理においては、受託者に厳格な義務が課されるため、信託契約内容をしっかり確認しておくことが重要
認知症対策には、任意後見契約と家族信託の併用を
任意後見契約と家族信託は、それぞれ補い合う形で認知症対策として有効に機能します。
家族信託は、本人が元気なうちから受託者に財産管理を任せられるので、日常的な資産管理や相続対策に有効です。一方、任意後見契約は本人の判断能力が低下した際の「身上監護」(医療・介護の契約や生活全般の支援、等)もカバーできます。
このように、両者を組み合わせて活用することで、財産管理と身上監護の両面で、より実効的な認知症対策を講じることができます。
遺言書とセットで準備しておくことで安心の対策を
これらの制度を活用していても、最終的な財産の承継は遺言書で明確にしておくことが大切です。
任意後見契約や家族信託は、あくまで「生前の管理」に焦点を当てた制度であり、親の死後の財産分配については直接的に効力を持ちません。
ですので、遺言書を作成して「誰にどの財産を承継させるのか」をはっきりさせておくことで、相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。
これらの制度と遺言書をセットで準備しておくことで、親の財産管理から相続手続まで、一貫して安心できる対策を講じることができます。
まとめ
親の財産は、いずれ相続される財産ですが、相続が発生するまではあくまで「親のもの」です。管理を任される立場としては、あらぬ疑いをかけられないよう、以下の点を徹底することが大切です。
・親の財産は親のものであると強く意識する
・管理内容を必ず記録し、透明化する
・必要に応じて適切な制度を活用し、第三者のチェックを受ける
今回ご紹介した「財産管理契約」「任意後見契約」「家族信託」といった制度を上手に活用することで、親の財産管理をスムーズかつ透明性高く進めることができます。
また、任意後見契約と家族信託を併用することで、認知症などで判断能力が低下した際の身上監護までカバーでき、実効的な認知症対策としても大いに役立ちます。
そして、これらの制度はあくまでも生前管理中心の対策であり、最終的な財産の承継方法を明確にするためには遺言書の作成が欠かせません。
行政書士が各契約の契約書作成や遺言書の作成、公正証書作成の際の準備や公証役場とのやり取りまでを丁寧にサポートします。親の財産管理から相続まで、家族が安心して話し合い、家族間の争いの火種をなくすためにも、これらの制度の活用を前向きに検討してみてください。
この記事は、新横浜エリア・港北区を中心に遺言書作成・相続/遺産整理手続きのサポートなどを行う「行政書士ながお事務所」が執筆しています。
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