「遺言書さえ書いておけば、すべて自分の思い通りに財産を渡せる」・・・実は、これは大きな誤解です。相続でもっとも多いトラブルの原因のひとつが「遺留分」の存在です。
遺言書を作成する人も、相続人となる人も、最低限知っておくべき「遺留分」について、実際のトラブル事例を交えながら、行政書士がわかりやすく解説します。
遺留分とは? たとえ遺言があっても「最低限の取り分」を守る権利
遺留分とは、被相続人(亡くなった方)の「子ども」や「配偶者」「親」など、法律で定められた特定の相続人に認められる、最低限の相続財産を確保する権利です。
この権利は、たとえ遺言書で「すべての財産を特定の人に相続させる」と記載されていても、奪うことはできません。
つまり、例えば 「長男にすべての財産を相続させる」「愛人に全財産を遺贈する」 こうした遺言があっても、遺留分を持つ相続人は【遺留分侵害額請求】をすることで、法律上保障された一定の財産を受け取ることができます。
なお、「兄弟姉妹」には、遺留分の権利がありません。
法定相続分とは?
まず、遺留分を理解するためには「法定相続分」を知っておく必要があります。法定相続分とは、遺言書がない場合に民法によって定められた、各相続人が相続する割合のことです。たとえば、
● 配偶者と子 → 配偶者1/2、子全体で1/2(子が2人なら1/4ずつ)
● 配偶者と親 → 配偶者2/3、親1/3
● 配偶者と兄弟姉妹 → 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 この法定相続分は、遺留分を計算するときの「基準」となります。
そして遺留分は次の2つのステップで考えます。遺留分は「総体的遺留分」と「個別的遺留分」に分かれます。
① 総体的遺留分(相続財産全体に対する割合)
● 子や配偶者が相続人の場合 → 財産全体の1/2
● 直系尊属(親など)のみが相続人の場合 → 財産全体の1/3
● 兄弟姉妹のみの場合 → 遺留分なし
② 個別的遺留分(各相続人の遺留分) ⇒ 総体的遺留分 × 各相続人の法定相続分
【具体例】
- 配偶者と子が相続人 → 総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/2 = 遺留分1/4
- 両親のみが相続人 → 総体的遺留分1/3 × 法定相続分1/2 = 遺留分1/6
総体的遺留分の割合は、相続人の組み合わせによって「1/2」か「1/3」になることを覚えておきましょう。
どうして遺留分トラブルが起きるのか
実際の相続では、「すべての財産を長男に相続させる」と遺言書に書かれていた場合、他の子どもたちが「私の取り分がない!」と感じ、遺留分侵害額請求を起こすことがあります。
とくに家業を継ぐ長男だけに財産を集中させるケースや、特定の子どもだけに生前贈与が手厚く行われた場合など、相続人間で不公平感が強まるといわゆる「争族」へと発展してしまうケースが少なくありません。
この請求は「金銭」で行われるのが原則であり、遺産分割とは異なる仕組みです。遺留分を侵害された側は、相続開始後10年以内に請求する必要があります。
遺留分が認められる相続人と認められない相続人
遺留分が認められるのは、以下の範囲の相続人です。
・配偶者:亡くなった人の夫や妻が相続人になる場合、遺留分が認められます。
・子ども、孫などの「直系卑属」:子どもや孫、ひ孫などの被相続人の直接の子孫を「直系卑属」と言い、遺留分が認められます。
・親、祖父母などの「直系尊属」: 親や祖父母、曾祖父母などの被相続人の直接の先祖を「直系尊属」と言い、遺留分が認められます。
遺留分が認められない相続人は以下の通りです。
以下の相続人には遺留分が認められません。
・兄弟姉妹や甥姪:被相続人の兄弟姉妹や、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合に相続人となる甥姪には遺留分が認められません。
遺留分の具体的な割合
遺留分の割合は、法定相続人の人数や続柄によって異なります。代表的なケースは次のとおりです。
- 配偶者+子 → 総体的遺留分1/2 ⇒ 個別的遺留分:配偶者1/4、子全体1/4
- 子どもだけ → 総体的遺留分1/2 ⇒ 子全体で1/2
- 配偶者のみ → 総体的遺留分1/2 ⇒ 配偶者1/2
- 親のみ → 総体的遺留分1/3 ⇒ 親それぞれ1/6
- 兄弟姉妹 → 遺留分なし
このように、遺留分はまず「総体的遺留分」を決め、次に「各人の法定相続分」に応じて計算することが正しい理解です。
遺言書と遺留分の関係
遺言書は「誰に何を相続させるか」を自由に指定できますが、遺留分を無視した内容にすると、相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。つまり、遺言書があっても完全に思い通りにはならないのです。
特に「遺留分を侵害する遺言」は形式上は有効でも、実際には金銭での調整が求められる場合があります。たとえば「全財産を長女に相続させる」という遺言があっても、他の相続人は遺留分の請求をすることで、財産の一部を受け取ることができます。
遺留分トラブルを防ぐためにできること
トラブルを防ぐためには、以下のポイントが重要です。
- 相続人全員の意向を確認し、できれば事前に話し合っておく
- 遺言書の付言事項で「なぜそのように分けたのか」をしっかり伝える
- 生前贈与や家族信託なども活用する
- 生命保険や退職金など相続財産に含まれない資産を活用する
- プロ(行政書士・司法書士・弁護士)に相談する
遺言書の付言事項では「感謝の気持ち」「家族への思い」なども添えると、相続人の心情に訴え、争いを未然に防ぐ効果があります。単に遺産分割内容を遺言本編の条項に記載するだけでなく、付言として「なぜそうしたのか」をしっかり書き残すことは、相続人の納得感を思っている以上に高めるものです。
まとめ
遺言書は相続トラブルを防ぐ大切な手段です。しかし「遺留分」というルールを無視すると思わぬ争いを招きかねません。円満な相続を実現するためには、法的な知識と家族間の丁寧なコミュニケーションが欠かせないのです。一方で、あまりに遺留分や法定相続分を気にしすぎてしまい、自分の思いとはかけ離れた遺言書になってしまう方がいらっしゃいます。
できる限りトラブルを未然に防ぐための手立てを取ることは大切です。しかしながら、遺産分割はピザを均等に切り分けるようにはいきません。ある程度偏ることはやむを得ないと覚悟して、自分の思いをきちんと残すという軸はぶらさないことが満足感の高い遺言書を書くコツです。
この記事は、新横浜エリア・港北区を中心に遺言書作成・相続/遺産整理手続きのサポートなどを行う「行政書士ながお事務所」が執筆しています。
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