遺言書を作ったからといって、それだけで相続手続きがスムーズに進むわけではありません。実は、その内容を実現してこそ、遺言書を残した意味があるのです。
その役割を担うのが「遺言執行者」です。
特にご家族を遺言執行者に指定する場合には、あらかじめ流れを共有し、負担をできるだけ軽くするための準備が重要です。
今回は、遺言執行者に指定された人がどのような手続きを行う必要があるのか、基本的な流れを分かりやすくご紹介します。
遺言執行の基本的な流れ
遺言書の内容に従って相続財産を分配したり名義を変更したりするためには、以下のようなステップが必要です。
戸籍類の取得
まず必要になるのが、
- 遺言者の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本一式
- 相続人全員の戸籍謄本と住民票
これは、「遺言書の検認」や「遺言書情報証明書の取得」を行うために必ず取得しなければならない書類です。
たとえば、子どもがいない遺言者で、相続人が兄弟姉妹の場合には、亡くなったご両親の戸籍も遡って取得する必要があります。
相続人の構成によって必要書類は異なるため、戸籍の取得は思った以上に大変です。
遺言書の検認または遺言書情報証明書の取得
次に、遺言書の形式に応じた手続きを行います。
1)自筆証書遺言(自宅等で保管):家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
2)自筆証書遺言(法務局の自筆証書遺言保管制度利用):法務局から「遺言書情報証明書」を取得することで検認は不要になります。
いずれにしても、上記で収集した戸籍類が必ず必要になります。
※公正証書遺言の場合は、上記1)2)の手続きは不要です。
遺言内容の通知
遺言執行者は、遺言書の内容をすべての相続人に通知する義務があります(民法1011条)。
通知を怠ると、他の相続人から債務不履行責任を問われる可能性があるため注意が必要です。
財産調査と目録の作成・交付
続いて、遺言者の財産を調査し、
- 預貯金
- 不動産
- 株式や有価証券
- 車両、貴金属など
を含めた財産目録を作成し、すべての相続人に交付する必要があります。
これも法律上の義務となっており、適切かつ確実に履行しなければなりません。
財産の引き渡し・名義変更
遺言書の内容に沿って、
- 預貯金等の払戻し
- 不動産や車の名義変更
- 株式の移転手続き
などを進めていきます。
特に金融機関や法務局とのやり取りは煩雑で、書類の不備があると何度も足を運ぶことになります。
遺言執行の完了報告
遺言執行がすべて終わったら、その内容を全相続人に報告する義務があります。
具体的には、
- どの財産を誰に渡したか
- 名義変更や払い戻しの完了状況
などを明記し、透明性をもって報告することでトラブルを未然に防ぐことができます。
遺言者が事前にできること
遺言執行は、想像以上に煩雑で労力のかかる作業です。
ご家族などを遺言執行者に指定するのであれば、できるだけ負担を軽減する準備をしておくことが重要です。
以下のようなサポートを遺言者本人が事前に行っておくことはとても有効な準備となります。
- 出生から現在までの戸籍を取得して保管しておく
- 財産リスト(預貯金・不動産・有価証券・借金等)を作っておく
- 家庭裁判所や法務局の連絡先や、遺言書の保管場所を共有しておく
- 通帳・キャッシュカード・権利証などを整理しておく
少しの準備で、遺言執行者の負担は格段に軽くなります。
家族を遺言執行者にする際に伝えておきたいこと
遺言執行者に指定された方が、自信を持って行動できるように、以下の2点はぜひ伝えておきましょう。
無理だと感じたら専門家に委任してもよい
説明してきました通り、遺言執行者にはそれなりに専門的な知識とかなりの時間と労力がかかります。そのため、遺言執行者は、自らの職務を専門家(行政書士・司法書士・弁護士など)に委任することができることが法律で規定されています。
手続きに不安があれば、無理せず専門家に依頼するよう勧めてください。
遺留分の請求を受けたら弁護士に相談する
たとえば、遺言書によって遺留分を侵害された相続人が弁護士を通じて「遺留分侵害額請求」をしてくる場合があります。
一般の方が対応するのは困難ですので、その際は必ずご自身も弁護士に相談・依頼するよう伝えておきましょう。
まとめ 円滑な遺言執行の履行は「生前の準備」で決まる
遺言書を残すことは遺言者の思いを実現するために大変有効な手段ですが、それだけでは相続手続きは前に進みません。
実際に遺言の内容を実現してくれる「遺言執行者」に、どれだけの負担がかかるかを理解し、少しでも楽になるように準備をしておくことが、ご家族への「思いやり」です。
この記事は、新横浜エリア・港北区を中心に遺言書作成・相続/遺産整理手続きのサポートなどを行う「行政書士ながお事務所」が執筆しています。
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