「自筆証書遺言保管制度」を利用して遺言書を法務局に預けていた方が亡くなった場合、相続人や遺言執行者は「遺言書があることを知っている」だけでは、すぐに相続手続に入れるわけではありません。
この制度は、遺言者が生前に「遺言書を法務局で保管」してくれる安心感がある一方で、相続発生後の手続きでは想像以上に煩雑な書類準備が必要になる点に注意が必要です。
今回は、相続専門の行政書士として、「実際に相続が発生した後にどう動くべきか」「遺言書情報証明書の交付請求に何が必要か」を詳しく解説します。
自筆証書遺言保管制度とは?(おさらい)
自筆証書遺言保管制度とは、法務局が遺言者本人の自筆による遺言書を保管してくれる制度です。
この制度を利用すると、次のようなメリットがあります。
- 紛失・改ざんのリスクを防げる
- 家庭裁判所での検認が不要になる
- 相続人の手続きがスムーズになる
詳しくはこちら⇒自筆証書遺言保管制度の利用方法と必要書類 行政書士が解説します! | 横浜の行政書士 KUNIのブログ
それでは、実際に遺言者が亡くなった後は、どのような手続きを取れば良いかを説明します。
まず最初に確認すべきこと
遺言者が亡くなったとき、個別の相続手続に動く前にまず確認すべきポイントは以下のとおりです。
<遺言書の有無を確認する>
まずは故人が遺言書を作成していたかどうかを確認します。それは自筆証書遺言か公正証書遺言か、自筆の場合は自筆証書遺言保管制度を利用していたかのかいなかったのか、を確認します。
公正証書遺言の場合は、平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、日本公証人連合会が管理する遺言情報管理システムを利用して有無を確認できます。お近くの公証役場で遺言公正証書の有無および保管公証役場を検索したい旨を申し出ましょう。
自筆証書遺言で保管制度を利用していた場合は、被相続人の自宅に「保管証」などが残されているケースもありますが、確実なのは法務局で遺言書保管の有無を照会することです。「遺言書保管事実証明書の交付請求」「遺言書の閲覧請求」または「遺言書情報証明書の交付請求」で確認できます。
公正証書遺言ではなく、自筆遺言遺言で保管制度の利用もしていなかった場合は、公共の制度上で探すことはできませんので、自宅の引き出しや趣味の棚、仏壇、自宅の金庫など、思い当たる場所を探すしかありません。。。
探した結果、自宅から遺言書が発見された場合は、封を開けずに家庭裁判所に「検認」の申立てをしなければなりません。
今回の記事のテーマである自筆証書遺言保管制度を利用していた場合は、遺言書は法務局に保管されていますので、家庭裁判所の「検認手続き」は不要です。ただし法務局から、遺言書そのものと同様の効果を持つ「遺言書情報証明書」を交付してもらうために次のような手続きが必要となります。
遺言書情報証明書の交付請求
自筆証書遺言保管制度を利用して相続手続きを進めるためには、「遺言書情報証明書」の交付を法務局に請求する必要があります。これが、実質的に遺言の内容を証明する「遺言書の代わり」となる書類です。多くの相続手続きで広く使用できます。
しかし、この交付請求には非常に多くの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍などが必要で、公正証書遺言と比べて大きな手間がかかるポイントです。
遺言書情報証明書の交付請求に必要な書類
交付請求に必要な書類は「法定相続情報一覧図」の有無で大きく以下の2パターンに分かれます。
法定相続情報一覧図の詳細はこちら⇒「法定相続情報一覧図」とは?その役割・作り方・申請方法 | 横浜の行政書士 KUNIのブログ
1.法定相続情報一覧図がある場合
- 交付請求書
- 法定相続情報一覧図の写し(一覧図に住所の記載がない場合は、相続人全員の住民票の写しも必要)
- 請求者の本人確認書類(顔写真付きの官公署から発行された身分証明書)
このパターンであれば戸籍の提出は不要となり、かなり手続きがスムーズです。事前に法定相続情報一覧図を作成しておくと、手続きが簡素化されます。法定相続情報一覧図を作成する際に戸籍類一式が必要になりますが、法定相続情報一覧図は多くの相続手続で利用できるので、早期に作成しておいた方が良い書類です。
2.法定相続情報一覧図がない場合
この場合は、法務局が相続人の資格を確認できるようにする必要があるため、かなりの数の戸籍謄本・除籍謄本・住民票、等が必要となります。
<必要書類の一例>
- 交付請求書
- 請求者の本人確認書類(顔写真付きの官公署から発行された身分証明書)
- 遺言者(被相続人)の出生時から死亡時までの連続する一連の戸籍すべて(除籍・改製原戸籍含む)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票の写し
- 代襲相続がある場合は、被代襲者の出生時から死亡時までの全戸籍(除籍・改製原戸籍含む)
- 兄弟姉妹が相続人となる場合は、遺言者の父母の出生時から死亡時までの全戸籍(除籍・改製原戸籍含む)
※場合によっては30通以上になることもあります。
このように、自筆証書遺言保管制度の遺言を相続手続に利用できるようにするには、公正証書遺言では必要のない煩雑な「戸籍の収集作業」が必要となることが最大のデメリットです。
※令和6年に戸籍の「広域交付制度」が開始されています。一か所の市区町村役場で大部分の戸籍を入手できる可能性が高まりました。今後は戸籍収集の負担が緩和されていくと思われます。
遺言書情報証明書でできること
遺言書情報証明書を取得すれば、いよいよ遺言の内容に基づいて具体的な相続手続が実行できます。
具体的には、
- 金融機関での預金解約・払戻し
- 不動産の名義変更(登記申請)
- 株式・保険金の請求
- 遺言執行者が指定されていれば、その執行
- 相続税の申告(相続開始後10か月以内) など
などが可能になります。
遺言書情報証明書を添付すれば、相続手続の多くが進められます。検認の申立てが不要なので時間の節約にもなります。ただし、金融機関や登記所によっては、さらに追加書類を求められることがあるため、個別に確認が必要です。
自筆証書遺言保管制度のメリット・デメリット
項目 | メリット | デメリット |
生前の手続 | 比較的簡単かつ低コストで法務局に保管できて安心・安全 | 公証人による確認がないため形式上のミスが残る可能性がある |
相続発生後 | 家庭裁判所の検認不要 | 戸籍収集が煩雑で時間と手間がかかる ※令和6年に開始された「広域交付制度」を利用すれば大幅に負担を軽減できる |
コスト | 作成・保管が安価 | 場合によっては、相続発生後に専門家に依頼する可能性がある |
まとめ 自筆証書遺言保管制度を使うなら、戸籍類の準備を忘れずに
自筆証書遺言保管制度は、事前にしっかり準備をすれば大変有効な制度です。
「遺言書を作成して保管して終わり」ではなく、相続発生後にスムーズに遺言書を活用するための準備(出生時から現在までの戸除籍謄本を収集して準備しておき、亡くなったら、死亡時の除籍謄本を入手し、ただちに法定相続情報一覧図を作成する)をしておくことが重要です。
実際の相続の現場では、遺言の内容に基づく実務的な処理が求められます。
「自筆証書遺言保管制度を利用していた親が亡くなったが、突然、相続と言われても一体何から手を付けたら良いかわからない、、、」など、ひとりで悩むようなら、遺言・相続に強い行政書士などの専門家にサポートを依頼するのも課題解決の良い方法です。
この記事は、新横浜エリア・港北区を中心に遺言書作成・相続/遺産整理手続きのサポートなどを行う「行政書士ながお事務所」が執筆しています。
当事務所では、自筆証書遺言の作成支援から相続手続きまで幅広くサポートしております。
法務局での自筆証書遺言保管制度を利用された方の相続対応についても、丁寧にサポートいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。初回のご相談は無料です。
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