~3つの遺言の種類、自筆・公正・秘密の違いと選び方ガイド~
「そろそろ遺言書を書いておこうかな」
そんなふうに思ったとき、まずぶつかるのが、、、
「どの種類の遺言書にすればいいのかな?」という疑問ではないでしょうか。
遺言書には大きく分けて3つの種類があります。ネットで調べても「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」など、聞き慣れない言葉ばかり。
それぞれにメリット・デメリットがあり、自分にとってどれが最適なのか迷ってしまいますよね。
実際、私の事務所にも「とりあえず遺言を書いてみたけれど、これで大丈夫でしょうか?」というご相談や、「法的に有効な遺言書って、どれくらいお金がかかるんでしょう?」といったご質問が寄せられます。
この記事では、遺言・相続を専門とする行政書士の視点から、それぞれの遺言書の特徴や選び方のポイント、実際の相談事例も少し交えて解説します。
ご自身やご家族にとって最適な遺言書の形を考えるヒントになれば幸いです。
遺言書には法律で定められている「普通方式」の遺言として3つの種類があります。まずは、この3種類を確認しておきましょう。
種類 | 説明 | 特徴 |
---|---|---|
自筆証書遺言 | 自分で全文を手書きして作成する | 費用がかからず手軽に作れるが、形式不備による無効リスクあり |
公正証書遺言 | 公証役場で公証人に作成してもらう | 法的に確実で安全。費用はかかるが安心度は高い |
秘密証書遺言 | 内容を誰にも見せずに、公証役場で存在だけ証明してもらう | 内容は秘密にできるが、公証役場での手続きを経ても、検認を要する |
このうち、実際によく使われるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
自筆証書遺言:まずは気軽に始めたい方に
特徴とメリット
自筆証書遺言は、筆記用具と紙さえあれば、誰でもいつでも作れるのが最大のメリットです。
近年は法務局の保管制度も整い、以前より安全性と信頼性が高まりました。「まずは気持ちを形にしておきたい」「費用をかけずに残しておきたい」という方にとっては、第一歩として最適な方法です。
相談事例:70代女性の「今の自分の気持ちを遺言書にしておきたい」
70代の女性から、「家族に争ってほしくないし、迷惑もかけたくない。まずは自分で書いておきたい。認知症になったら書けなくなると聞いたので、、、」というご相談がありました。
ご本人は本を参考に一所懸命ご自身で遺言書を作成され、「これで合っているのか不安なので、みてください」とのことでご来所。自筆証書遺言としての法的要件と内容の確認及び保管制度の説明を私が行いました。
「これでようやく安心できました」とおっしゃっていましたが、後日、「やっぱりいっそ公正証書にして、きちんとしたい」とのことで、最終的には公正証書遺言にするお手伝いをさせていただきました。
このように、まずはご自身が一番気にかかっていることから自筆で書き出して始めてみるというのも良い選択肢です。
注意点・デメリット
自筆であるがゆえに以下のような注意点があります。
- 全文を自筆(ワープロ不可)で書く必要がある(添付書類を除く)
- 形式や内容に不備があると無効になるリスクが高い
- 保管制度を使わない場合、家庭裁判所での検認が必要であり、遺言書の存在が気づかれない、または、改ざんされるおそれがある
向いている人
- まずは気軽に遺言を残したい方
- 費用を抑えたい方
- 内容を書き換える可能性が高い方(いつでも自由に書き換えられる)
- 法務局の保管制度を利用できる方(本人申請のため)
公正証書遺言:確実性と安心を重視したい方に
特徴とメリット
公正証書遺言は、公証人が法律的に正しい形式で作成するため、無効になるリスクが最も低い方法です。原本は公証役場で厳重に保管され、遺言者の死後も確実に見つかります。
また、家庭裁判所での検認手続きが不要なため、相続人の精神的・時間的負担が軽くなります。「絶対に遺言の効力を持たせたい」「なんとか相続人が揉めないようにしたい」という方には、公正証書遺言が最も適しています。
相談事例:前妻の子と現妻の子がいる60代男性のケース
60代男性のご相談者は、前妻との間にお子さんが1人、現妻との間にもお子さんが1人いらっしゃるという状況でした。
「私としては今の家族に全て残したいけれど、前妻の子にも遺留分があると聞きました。なんとか揉めごとにならないような遺言書を残したい」とのことでした。このようなケースでは、遺言書がないと相続人全員での遺産分割協議が必要になり、関係がこじれやすくなります。
そこで、誰に何を相続させるのかの具体的な財産配分を明確に記し、遺言執行者を指定して公正証書遺言を作成しました。付言としてご相談者の率直な気持ちを記載し、遺留分も考慮する形で作成しました。これで絶対に揉めないということではありません。できれば普段からの関係性を少しでも良好に保っておくことが何よりも重要なわけですが、こういったケースでは良好な関係を築くには困難な場合が多いです。
しかし、しっかりとした気持ちのこもった遺言書が公正証書として遺してあることは解決の大きな糸口となります。ご相談者も「これで将来、家族が争わずに済むかな」と少し安堵の表情をされてました。このような事情をお持ちの場合には、社会的な信頼性が高い公正証書遺言が非常に有効です。
注意点・デメリット
- 財産に応じて相当の費用がかかる
- 公証人との調整や書類の準備に手間がかかるうえ、公証役場へ面談に行く必要がある
- 証人2人の立会いが必要
向いている人
- 相続争いの火種を防ぎたい方
- 法的に確実な遺言を残したい方
- 家族の負担を減らしたい方
- 高額・多種な財産を所有している方
秘密証書遺言:内容を絶対に知られたくない方に
特徴とメリット
「遺言の内容を誰にも知られたくない」という方が選ぶことのあるのが秘密証書遺言です。
封をした遺言書を公証役場に持参し、公証人と証人の前で「これが自分の遺言です」と表明するだけです。せっかく公証役場で手続きをするのに、形式の不備があっても公証人は内容を確認しないため、無効になるリスクが高いです。また、相続手続きの際には家庭裁判所での検認手続きも必要です。そのため実務的には利用されることはあまりなく、あえて選ぶメリットはほとんどないのが現状です。
注意点・実務上のデメリット
- 形式や内容に法律上のミスがあっても、公証人は確認できない
- 秘密証書遺言は公証役場では保管されず、遺言者が遺言者の責任で保管する
- 家庭裁判所での検認が必要
- 内容が不明なまま放置される可能性がある
→ このような理由から、実務上はほとんど利用されません。
【比較一覧表】自筆証書 vs 公正証書 vs 秘密証書
特徴/種類 | 自筆証書 | 公正証書 | 秘密証書 |
---|---|---|---|
作成の手軽さ | ◎ | △ | △ |
費用の安さ | ◎ | × | △ |
法的な安全性 | △ | ◎ | × |
検認の必要性 | △保管制度利用で不要 | ◎不要 | ×必要 |
内容の秘密性 | △ | △ | ◎ |
まとめ:あなたに合った遺言書を選ぶには?
遺言書の選び方は、「何を大切にしたいか」によって変わります。
- 手軽さと自由度を重視したい → 自筆証書遺言(+保管制度)
- 確実性と家族の安心を重視したい → 公正証書遺言
- とにかく秘密性を最優先 → 秘密証書遺言(ただしあえて選ぶメリットはほとんどない)
最初は自筆証書遺言で気持ちを整理し、状況が落ち着いてから公正証書遺言に移行する、というステップもよくある方法です。行政書士としても、このような段階的なアプローチをお勧めすることもあります。
遺言書はご家族への穏やかな相続を願うメッセージ
遺言書は、ご家族への穏やかな相続を願うメッセージです。
それは、「家族に争ってほしくない」「家族に面倒をかけたくない」「自分の思いをきちんと伝えておきたい」というご家族への思いやりです。
迷っている方には、「まず書いてみる」ことから始めることをおすすめします。
そして、形式や内容に不安がある場合には、どうぞお気軽にご相談ください。
行政書士として、あなたの想いをご家族に届けるお手伝いをいたします。
遺言書を書いてみたい!と思われた方は、お気軽に当事務所にご相談ください。この記事、どんな人が書いてるのかな?といった関心を持っていただいた方もどうぞ当事務所のホームページをご覧ください!
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